メディカルケアガイド西区インタビュー記事
※メディカルケアガイド2024年西区版に掲載されたインタビュー記事です
2005年の開院以来、約7000人の赤ちゃんの出産に携わってきた札幌西レディースクリニック。2024年5月、馬場 征一医師が理事長・院長に就任し、いったんお休みしていた分娩対応を7月から再開した。新体制の指揮を執る馬場院長にお話を伺った。
―馬場院長は厚生労働省の行政官(医系技官)として、離島医療や院内感染対策、母子手帳の改定などに携わられた経歴をお持ちです。まず、沖縄県で離島医療に携わられた経緯について伺います。
馬場 院長 厚労省でへき地・離島医療政策を担当していたこともあり、各都道府県や自治体の医療政策担当者とは接点がありました。ちょうど臨床復帰を考えていた時に、沖縄県庁の方から石垣島では産婦人科医師不足による分娩休止の重大な問題があるとのことで赴任のお話を頂き、微力ながらと即断したところでした。
―沖縄県立八重山病院でのご勤務はいかがでしたか?
馬場 院長 石垣島は沖縄本土から400㌔ほど離れた人口約5万人の島ですが、八重山病院は島全体の中核病院であり、屈指の精鋭医師が揃っている印象でした。産婦人科においては年間約600件のお産があり、本島や大学のご協力もあり4~6名の医師で取り組んでおりました。与那国診療所での診療や、多良間島への夜中の海上保安庁ヘリでの搬送、輸血のストックのない状況での生血輸血での救命といった臨床経験から、一歩外に出たら顔見知りの患者さんでもある島民との触れ合いなど、思い出にキリがないです。
―厚労省で携わった母子手帳改定についても教えてください。
馬場 院長 母子手帳は大改訂を10年に一度しますが、そこに携わることができました。私が参画した当時の改定で主なものには、お母さんの自由記載欄を大幅に増やしたことや、便色カラーカードの採用等があります。母子の健康のみ記載なのでなかなか父親からの記載というのが難しいところで苦慮しましたが、自分のアイデアの結論として、両親からの誕生日メッセージ欄を設けたりしてみました。
―さて次に、馬場院長が今年5月、札幌西レディースクリニックの理事長・院長に着任された経緯について伺います。
馬場 院長 私自身、いずれはクリニックを開業したいと考えておりました。様々な方のご尽力で今回、当院と縁を結んで頂きました。折しも当院では、産科医師確保の問題などから2023年10月から分娩対応をお休みしておりました。石垣島の時もそうでしたが、分娩再開して西区の周産期医療のお助けになるのであればと、着任を決断させていただきました。
―中止していた分娩対応を再開するにあたり、不都合はありませんでしたか?
馬場 院長 幸い産科に必要な器具は概ね揃っており、何より以前から当院に勤めていた助産師さんや、スタッフが残っておりましたので問題ありませんでした。むしろ、西区の要衝に位置する病院のロケーションや、優秀な助産師の存在を考えると、この恵まれた医療資源を活用して地域に還元しない手はありません。
―産科・分娩に対し、院長はどのような考えをお持ちですか?
馬場 院長 お産を野球で例えるなら、堅守で勝ち切る為、産科医師はプレイングマネージャー(監督)、主役のピッチャーが妊婦さん、捕手は助産師となります。このバッテリーだけで「完投勝利」が理想ですが、異常分娩の対応で吸引鉗子分娩や帝王切開などが必要となれば、産科医師の采配やリリーフ登板が必要です。出生数は減っていますが、不妊治療や高齢出産の増加とともに、「完投勝利」という状況が減り、全員野球で勝ち切るためにも、私のみならず、チームとしてスタッフ、妊婦さんご本人やご家族、地域の皆様も含め「目配り」「気配り」「心配り」が重要なのではないかと思います。
―昨今、分娩を担うクリニックの減少が危惧され、貴院の役割は大きいですね。
馬場 院長 広い視野からも現在は大学などの基幹病院でも周産期医療を担える医師が不足しております。要因としては、医療資源として産科医療に参画が可能な中堅どころの医師不足や、前述のような「完投勝利」のような分娩が減ったこと、また医療資源を多く投入する必要のある、言わば分娩難易度が高い症例が増えていることなどもあるかもしれません。そして基幹病院では分娩だけでなく、腹腔鏡の手術や悪性腫瘍の治療など婦人科の疾患の治療も併せて行わなくてはなりません。地域における基幹病院の負担を減らす意味においても、通常の正常分娩をしっかり取り扱い、分娩のみならず、婦人科でも本来早期治療をすべき方をいち早く基幹病院へ紹介し、その後のフォローを当院で行うなど、良い流れを作る必要が大いにあると思います。
―最後になりますが、地域住民の方々にメッセージをお願いします。
馬場 院長 先ほども申し上げましたが、分娩対応を7月から再開しました。産まれてくる赤ちゃんは健常に成長していけば確実に22世紀の世界を現実に生きており、その先の世界をも担っていく貴重な方々です。人生のスタートを上手く切れるようにお手伝いができたらと思います。一見して新築のような建物ではありませんが、建物の中には経験豊富な助産師が多く在籍し、スタッフの定着率が高く、気心も知れたチームであり質の高い医療提供体制ができる証左と思います。できる限りご期待に沿えるよう全スタッフで取り組んでまいります。よろしくお願い申し上げます。