予備軍を合わせると、国民の5人に1人が該当するといわれる糖尿病。一度発症すると治らないとされてきたが、あくまで個人的見解としながらも、「糖尿病はほぼ治る時代になった」と異を唱える医師が函館にいる。たかさわ糖尿病内科クリニック(2020年開院・函館市港町)院長の高澤宏文氏がその人だ。日本糖尿病学会専門医として啓発活動にも力を入れる高澤院長ならではの診療スタイルや治療について話を伺った。
―今や国民病と言われる糖尿病です。一度かかると治りづらいという認識が一般的ですがいかがですか?
高澤院長 これは個人的な見解ですが、「適切な治療をしていけば、ほぼ治ります」と患者様にはお伝えしたいです。当クリニックにお越しいただいた時点で症状が重度の方でも、適切な治療と併せて、食生活や生活習慣の改善をしていけば元気になれます。薬の服用を止めても、治療の効果で症状が落ち着いている患者様もいらっしゃいますし、そういった方は定期検査のため半月かひと月に一度、ご来院いただければ結構です。「あなたは一生糖尿病です」と医師が診断を下すのは、その後の治療に良い影響を与えません。
―検査結果に一喜一憂しがちな方や、週に何度も通院できない患者様にとっては、先生の考え方はありがたいはずです。
高澤院長 前の病院で医師に叱られ、通院を止めてしまったという患者様に時々出会います。当院では「病気を診るのではなく、患者様を診る」を方針とし、徹底的に患者様との意思疎通をはかります。例えば薬の服用を忘れがちな患者様には、その方に合った治療を私が提案すれば済みますし、決して叱ったりいたしません(笑)。
―オーダーメード型の糖尿病治療というのが先生のスタイルです。先生の言うオーダーメードとは?
高澤院長 先ほどの話とリンクしますが、患者様も十人十色です。「どこまでも患者様本人のご希望に沿う」という意味でのオーダーメード治療を行います。お金が無いから安い治療をしてほしいという患者様もいれば、糖尿病を治せるなら治療費は高くていいという方もいます。血液検査のデータはもちろんですが、患者様の経済状況などあらゆる面に配慮し、一人ひとりに合った治療をご提案します。
―糖尿病の診断基準と、治療を開始する基準を教えてください。
高澤院長 糖尿病の診断は、HbA1cというヘモグロビンの数値と併せ糖負荷試験の結果、「①早朝空腹時血糖値126㎎/㎗以上」「②75gOGTT200㎎/㎗以上」「③随時血糖値200㎎/㎗以上」「④HbA1c6.5%以上」のいずれかで糖尿病型を判断します。定期健診などで糖尿病予備軍の診断を受け、ご相談に来られる方がいらっしゃいますが、治療を開始するタイミングは人それぞれです。アジア系日本人の場合、糖尿病の発症原因は生活習慣の問題もありますが、遺伝の要因が大きいと言われております。健康診断で糖尿病の疑いが高いと指摘された際は、ぜひ受診していただくことをお勧めします。一般的に糖尿病治療には、食事療法・運動療法と薬物療法がありますが、極力、薬物療法を選択せず治療を行うことを目指します。使用する際は毎回患者様ごとに必要な薬物治療を選択し、治療にあたるようにしております。
―糖尿病と膵臓がんには深い関係があると言われています。早期発見のために重要なことは何ですか?
高澤院長 膵臓がん患者様の30%前後が糖尿病であるとのデータがあり、また糖尿病歴が長い人ほど膵臓がんが発症しやすいとの報告もあります。その他、加齢・遺伝・喫煙なども危険因子と言われております。また、膵臓がんでは約半数に血糖値が急激に上がる兆候があるといわれております。血糖値の急激な上昇があった場合、その原因を探ることが重要で、画像検査などによるスクリーニング検査を行い早期発見につなげます。
―院長はお子様や妊娠された患者様の糖尿病治療にも力を入れ、啓発活動を行っておられます。小児糖尿病については、周囲の理解が必要だと説いておられます。
高澤院長 小児の糖尿病の多くは1型糖尿病であり、インスリン治療が必要です。ただ近年、日本においても2型糖尿病が増えているのが現状です。1型糖尿病はインスリン治療と併せて低血糖にならないように捕食をして、血糖を自分で調整することが必要です。例えば授業中に捕食が必要な場合、教員・お友達など周囲の方々の理解も不可欠です。以前、小学校で小児の糖尿病について講習の機会を得ましたが、今後も啓発活動のお手伝いができればと考えております。
―妊娠された患者様の糖尿病治療について伺います。そもそも、症例としては多いのですか?
高澤院長 実は妊娠された方の約3割が妊娠糖尿病になるとの報告もあります。また元々、糖尿病に罹患されている方が妊娠されると、耐糖能異常が悪化することがございます。各学会が定めた血糖コントロールの基準がございますが、厳格にコントロールしすぎると患者様の負担が大きくなります。当院では当然、各学会が定める基準になるように努めますが、患者様を追い詰めるような指導は致しません。
―糖尿病に関する医療機器の進歩も目覚ましい中、貴院ではインスリンポンプ機器を導入したり、デジタル機器による健康見守り支援を行うなど、新しい取り組みも行っておられます。
高澤院長 インスリンポンプ機器の多くは米国製ですが、日本製のものもあります。現在、持続血糖測定機器と連動しているセット機器があり、「患者様の体に合ったインスリン量を投与できる」「低血糖が生じにくい」「患者様によっては管理が楽になり負担が減らせる」などの長所がある半面、常に体に装着していることへのストレスや、値段が高いという短所もあります。また、デジタル機器の導入により患者様の血糖値等の数値を、24時間タブレット等で確認できるようになりました。診療報酬の制度が整っておらず国内ではそれほど広がりを見せておりませんが、当院では約40名の患者様にご利用いただいております。患者様の健康管理のために、可能な限り今後も対応してまいります。
―開業から約3年が経ちました。これからの診療方針や医師としての目標、地域住民に伝えたいメッセージをお願いします。
高澤院長 本来なら糖尿病は糖尿病内科医が診療するのが当たり前なのですが、日本の医療では小児科、産科など他の診療科にも糖尿病患者様が分散している現状があります。年齢性別を問わず、糖尿病でお悩みの患者様には、専門機関である当院にお越しいただけるよう啓発活動にも力を入れてまいります。おかげさまをもちまして開業3年間で、約3000名を超える新規患者様にご利用いただきました。「ここに相談すれば大丈夫」と患者様に選んでいただけるクリニックを目指し、研鑽を積んでおります。一般内科にも対応しておりますので、かかりつけ医として是非ご利用ください。